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東京地方裁判所 昭和47年(ヨ)7354号 決定

第一 当事者

別紙当事者目録記載のとおり。

第二 主文

(一)  債権者らの本件仮処分申請は、いずれもこれを却下する。

(二)  申請費用は、債権者らの負担とする。

第三 理由

一疎明資料及び当事者審尋の結果によれば、次の事実が一応認められる。

(一)  債権者早川清は、その肩書住所に土地と二階建家屋を所有し、右家屋に居住している。債権者早川綾子、同早川滉、同早川治子は、いずれも債権者早川清の家族であつて、同債権者と同居している。

債権者中井弘は、その肩書住所に土地と五階建共同住宅用家屋を所有し、右家屋の五階に居住している。債権者中井英子は債権者中井弘の妻であつて、同債権者と同居している。

債権者市川勇は、その肩書住所に土地と二建階家屋を所有し、右家屋に居住している。債権者市川尚子は債権者市川勇の妻であつて、同債権者と同居している。

(二)  債務者興和不動産株式会社は、別紙物件目録一の(一)ないし(四)記載の土地を所有し、右土地上に、地上七階、地下二階、塔屋二階の貸事務所用ビル(以下、「興和ビル」と略称)を建築しようとしている。債務者佐藤工業株式会社は、債務者興和の注文を請けて興和ビルの建築工事を施行している。債務者添田賢朗は、興和ビルの建築設計をした者である(以上の債務者三名を一括して「興和ら」と略称)。

債務者秀和株式会社は、別紙物件目録二の(一)、(二)記載の土地を所有し、右土地上に地上九階(原設計では八階)塔屋二階の貸事務所用ビル(以下、「秀和ビル」と略称)を建築しようとしている。債務者株式会社熊谷組は、債務者秀和の注文を請けて秀和ビルの建築工事を施行している。債務者船越義房は、秀和ビルの建築設計をした者である(以上の債務者三名を一括して「秀和ら」と略称)。

債務者田辺製薬株式会社は、別紙物件目録三の(一)、(二)記載の土地を所有し、右土地上に、地上七階、地下二階、塔屋二階の事務所用ビル(以下「田辺ビル」と略称)を建築しようとしている。債務者株式会社竹中工務店は、債務者田辺の注文を請けて、田辺ビルの建築工事を施行している。債務者八島良高は田辺ビルの建築設計をした者である(以上の債務者三名を一括して「田辺ら」と略称)。

(三)  本件関係土地、家屋、建築予定ビルの位置関係は、別紙図面(一)記載のとおりである。

興和ビル、秀和ビル及び田辺ビルの建築は、建築基準法上いずれも適法なものであるが、これらのビルが建築されることにより債権者らは、主として冬期に多かれ少かれ、その住居の日照を遮断されることになる。その程度は、債権者早川方が最も大きい。債権者中井方及び債権者市川方のそれは、債権者早川方のそれに比較すれば、小さい。

ところで、興和ら、秀和ら及び田辺らは、いずれも、本件仮処分申請がなされたのちに、それぞれ興和ビル、秀和ビル及び田辺ビルの建築設計の各一部を変更した。その結果、債権者早川方の居宅一階居間南側開口部中央の床上一メートルの高さの場所における冬至の日の前記各ビルによる日照遮蔽の情況は、別紙図面(二)及び(三)記載のとおりとなり、東京における真太陽時で、秀和ビルにより午前七時ごろから午後零時四五分ごろまでの間及び興和ビルと田辺ビルにより午後三時一〇分ころから日没までの間それぞれ日照を奪われるが、午後零時四五分ころから午後三時一〇分ころまでの約二時間二五分くらいの間は、日照が確保されることになつた。

(四)  債権者らの住所及び前記各ビルの建築予定地及びその周辺一帯の地域(以下「本件地域」と略称)は、都心部に在りながら、平屋建て又は二階建ての家屋の多い閉静良好な住宅街であつた。しかし近年に至り、本件地域の北方に在る靖国通りの南側商店街が本件地域の方向に除々に拡がつてきつつあり、また、本件地域の四周には、科学警察研究所、大妻女子大学図書館をはじめとして、四階建てないし八階建ての学校関係建物、会社や銀行事務所、高級共同住宅等が相当多数見られるようになつた。東京都市計画において、従来、住居地域、準防火地域、第五種容積地区に指定されている地域、地区内に在つた本件地域は、最近の昭和四八年一一月二〇日に指定、告示のあつた用途地域等の改正により、住居地域、防火地域、容積率四〇〇パーセントとして指定された地域内に在ることになつたが、右改正のための千代田区試案では、本件地域は商業地域内に在るようになつていたものであつて、本件地域住民の中には、右の千代田区試案を強く支持する者も少くなかつた。興和ビル、田辺ビルの西側道路(補助一四八号線)の地下には、昭和五〇年に地下鉄(帝都高速度交通営団一一号線)が開通する予定であり、近くに停車駅として三番町駅が予定されている。

以上のような事情に鑑みると、今後本件地域には、五、六階建てくらいの中階層建物が増加していくことが予想され、本件地域は、住宅街と事務所街、商店街とが接着し、ないしは混在する地域として発展していくのではないかと推測される。

二以上判示のような事実関係を前提として考察すると、興和ビル、秀和ビル及び田辺ビルの建築により、債権者らが各住居の日照遮蔽その他の点で日常生活においてある程度の不利益を被るとしても、それは本件地域のような場所に住居を構えて生活する者として、社会生活上受認しなければならない程度のものというほかなく、前記各ビルの建築が債権者らに対する関係で違法であるということはできない。そうとすれば、その余の判断をなすまでもなく、債権者ら主張の被保全権利については疎明はないことになる。

三以上のとおりであるから債権者らの本件仮処分申請をいずれも理由のないものとして却下し、申請費用の負担については、民訴法九三条、八九条を適用する。

よつて主文のとおり決定する。

(宮崎富哉)

当事者目録

債権者 早川清

外七名

右訴訟代理人 五十嵐敬喜

債務者 興和不動産株式会社

右代表者 佐藤悟一

右訴訟代理人 小林蝶一

外四名

債務者 佐藤工事株式会社

右代表者 佐藤欣治

右訴訟代理人 鍛治良道

外一名

債務者 添田賢朗

右訴訟代理人 木戸口久治

外二名

債務者 秀和株式会社

右代表者 小林茂

右訴訟代理人 安西義明

債務者 株式会社熊谷組

右代表者 牧田甚一

債務者 船越義房

右両名訴訟代理人 木村恒

債務者 田辺製薬株式会社

右代表者 平林忠雄

右訴訟代理人 宮崎豊

債務者 株式会社竹中工務店

右代表者 竹中銀一

右訴訟代理人 土方義之

債務者 八島良高

右債務者ら三名訴訟代理人 我妻源二郎

外一名

物件目録

一(一)東京都千代田区三番町八―七

宅地 1088.09平方メートル

(二)同所 三番町八―八

宅地 1021.52平方メートル

(三)同所 三番町八―九

宅地 699.20平方メートル

(四)同所 三番町八―一五

宅地 323.24平方メートル

二(一)東京都千代田区三番町二八―一

宅地 740.39平方メートル

(二)同所 三番町二八―二

宅地 740.52平方メートル

三(一)東京都千代田区三番町二六―一

宅地 929.15平方メートル

(二)同所 二六―二

宅地 809.91平方メートル

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